音過敏症(聴覚過敏)とは
音過敏症(聴覚過敏)とは、音がつんざくように耳に響いたり、頭の中で音が反響したり、それによって耳が痛く成ったり頭痛化したりといった状態で、非常に苦痛を伴うものです。場合によっては横にならないと耐えられないこともあります。
特に不快に感じる状況としては、以下のようなものがあります。
- 耳鳴りが頭の中続く
- 人の話し声、特にお子さんや女性の高い声が気になる
- 繁華街の人混みや駅のホーム、ゲームセンターなどでの音が耐えられない
- 食器が触れ合う音など、物と物がぶつかる音が不快
- 静かな時に、時計の秒針の小さな音や、キーボートの打音、クリック音などが気になる
聴覚過敏が起こる原因としては、以下のようなものが考えられています。
- ストレスにより自律神経が乱れ、交感神経の働きが強まり、過剰にアドレナリンを放出。それにより耳鳴りや難聴などの耳の不調が現れる。
- 人間の耳は、大きな音に対しては鼓膜を緊張させるなどして、音をそのまま伝えないようにする機能があるが、それが正常に機能していない
- 鼓膜の奥にある内有毛細胞という細胞が正常に機能せず、音の強弱の調整ができていない
- 人間の脳には、無意識のうちに必要な音と不要な音を振り分けて処理する「選択的注意」という機能があるが、この機能が上手く働かず、すべての音が聞こえてしまうことで聴覚過敏となっている
聴覚過敏の原因は一つだけではなく、上記のようなものの内、いくつかが組み合わさって発症することもあります。
また、発達障害のお子さんには感覚異常が伴っていることが多く、特にASD(自閉スペクトラム症)の場合は、聴覚過敏が伴うことが多いと考えられています。電車の通過音や救急車の音などが耐え難く、非常な苦痛を感じてしまいます。またASDの方では、「選択的注意」の機能が上手く働かず、必要のない音まで拾ってしまい、その時に会話している相手の人の声をうまく聞き取れない場合があり、人の話を聞いていない、と誤解されてしまうこともあります。またたくさんの音が同時に押し寄せることで、パニック状態になってしまうお子さんもいます。
このほか、HSP(Highly Sensitive Person:非常に敏感な人)と呼ばれるタイプのお子さんもいらっしゃいます。これは、外界の刺激や体内の刺激にきわめて敏感に反応してしまう気質を持っているもので、慣れない環境に置かれるなどした場合、音や光など、他の人が感じないような些細な刺激にも神経をたかぶらせてしまうというものです。こうした症状が原因で適応障害を引き起こしている場合もありますので、注意が必要です。
聴覚過敏に対する治療法は、また確立されていませんが、カウンセリングを通じて、自分の病気や症状について理解し、また周囲も理解してあげることで、つらい環境を少しでも変えていくことが大切になります。
たとえばストレスをなるべく受けないよう、リラックスできる環境を整えたり、なるべく音を遮断するため、耳栓やイヤーマフを使用したりすることも有効です。現在では、聴覚過敏のお子さん用のイヤーマフも販売されています。イヤーマフをしているということで安心感も生まれ、日常生活の質も向上します。
音嫌悪症(ミソフォニア)とは
以前から、特定の音に過剰なほど嫌悪感が出現する状態は知られていましたが、臨床的な研究が始められたのはつい最近のことで、現在でも医療従事者にもあまり知られていません。
音嫌悪症研究の先駆者であるSchröderの提案する診断基準は以下の通りです。
- 他の人が発する特定の音(例:食べる音、呼吸する音)が聴こえたり、聴こえそうになったりすると、即座にイライラ・むかつき・怒りなどの反応が起きる
- 自制心を失うような激しい怒りで、攻撃になることもある
- 本人は、怒りや嫌悪感が過剰で不合理だとわかっている
- 嫌悪する音が聴こえる状況を回避する。回避できないときには、激しい不快感、怒り、嫌悪感に耐える
- 怒り、嫌悪感、回避は、重大な苦痛(怒りや嫌悪感の対象となる人に迷惑をかける)または本人の日常生活に重大な支障をきたす。例えば、怒りや嫌悪感により、仕事や授業への参加や、社会交流が困難になる
- 強迫性障害(例:清潔感のない人への嫌悪感)やPTSD(例:外傷に関連する刺激の回避)などの別の障害では説明がつかない
(以上、院長による訳)
音嫌悪の対象となる音は、他者の咀嚼・鼻すすり・鼻をかむ音・咳・唾を飲み込む音・タイピングの音・麺類をすする音などが多いです。対象となる音を聴くと、動悸や過呼吸など生理的な強い反応が出現します。
強迫性障害などの精神疾患が併存することが多く、併存疾患の治療とともに音とうまく共存する方法を探っていきます。お気軽にご相談ください。