神経発達症とは
「神経発達症(発達障害)」は、幼い頃から続く、その他大勢の人たち(多数派:定型発達ともいう)とは少し異なる認知・行動特性のことです。
神経発達症の特性を持つ人たちと、定型発達の人たちでは過ごしやすい・力を発揮して活躍できる環境に違いがありますが、優劣があるわけではありません。
ここではADHD(注意欠如多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)、LD(学習障害)を例に説明します。
神経発達症の特性は、ある人とない人が、はっきりと分かれるものではなく、グラデーションになっているととらえられます。
発達障害の特性そのものに良し悪しはありません。しかし発達障害のお子さんでは、学習や友達関係などのつまづきから不登校やひきこもりになったり、気分がひどく落ち込んだり、ゲーム依存などになったりといった二次障害を起こすリスクが、多数派のお子さんと比べて高めです。
お子さんが幸せな生活を送るため、また二次障害の状態にある方はうまく立ち直るため、適切な支援が重要です。
ADHD(注意欠如・多動症)
ADHD(Attention-deficit/hyperactivity disorder:注意欠如・多動症)の人には「注意欠如(忘れっぽい、集中力が続かない)」、「多動性・衝動性(落ち着きがない、待てないなど)」の2つの特性が共存しています。
多動・衝動性は成長につれて目立たなくなることが多いですが、不注意傾向は青年期や成人期まで続く場合もあります。思春期以降は、こうした症状による対人関係や社会とのかかわりが上手くいかず、不安・うつ症状を引き起こす要因となることもあります。
ADHDでは、勉強のほか、遊びにも集中力続かないなど、1つの事に継続的に取り組むことができず、学校生活でもなくし物や忘れ物が多く、授業中も上の空になるなどの不注意が見られます。また、じっとしていることができないため、貧乏ゆすりをしたり、授業中に立って歩き回ってしまったりします。結果を考えずに行動して、言動で他人を傷つけてしまったり、自分が交通事故などでケガをしてしまったりする危険もあります。他のお子さんと比べて叱られたり失敗したりする機会が多いことから、自己肯定感が低下しがちです。
治療の場では、「環境調整」と「心理教育」が大切です。「環境調整」は、ADHDの症状を持っているお子さんが、日常生活を送りやすい環境を作っていくというものです。たとえば、翌日学校に持っていくもののリストを作るって忘れ物が無いようにしたり、授業中になるべく気の散らない席にしてもらったりします。
また「心理教育」とは、お子さん本人がその症状(特性)をよく理解し、行動に反映していくようにするというものです。具体的には、順番を待つ、おもちゃをみんなで使う、といったことを、できたこと、できなかったことなどを本人と確認しつつ、根気よく学んでいくことで、問題を改善していきます。
環境調整や心理教育だけでは効果が不十分で、日常生活に支障をきたしてしまう場合や、不注意・多動による危険な場面が多い場合などには、薬物療法も検討します。薬剤によって症状を軽減することで、自己肯定感を回復できることもあります。
お子さん自身が服薬を嫌がったり、保護者の方が、脳神経に作用する薬剤をお子さんに内服させることをご不安に感じたりされることはごもっともだと思います。そのため当院では、できる限り環境調整・心理教育を優先し、薬物治療の際にはお子さんや保護者の方の疑問点や心配事を解消した上で行います。
ASD(自閉スペクトラム症)
ASD(自閉スペクトラム症:Autism Spectrum Disorder)の特性は、「対人交流およびコミュニケーションの質の特性」と「興味の範囲が限局すること、パターン的な行動があること、感覚の過敏や鈍感」です。具体的には、場の空気を読む、相手の心情をくみ取ることが苦手だったり、相手の発言を正しく理解することや、自分の思いや考えをわかりやすく相手に伝えることが難しかったり、その場の変化に適応することが難しく、自分の興味やルールに「こだわり」、行動に偏りがでてしまったりします。
お子さんの場合、1歳を過ぎた頃から、「人と目を合わせない」「指さしをしない」「他のお子さんに関心が無い」などの兆候がみられます。その後、通常、対人関係の対処については、急速に成長していきますが、自閉スペクトラム症のお子さんでは、明確な変化が見られないことが多く、言葉を話し始める時期が通常通りでも、自分の興味のあることだけを話し続けたり、あることに何時間も熱中したりすることはあっても、他者とうまく会話ができないことがあります。また相手の言葉をおうむ返しにする(エコラリア)といった症状がみられる場合もあります。
またASDのお子さんは、いじめを受ける機会が多いことが分かっており、さらに思春期や青年期では、自分と他者の違いや社会にうまく溶け込めないことへの悩みも深くなります。こうした様々な問題によって、不安・うつ症状の合併などの二次障害を引き起こす場合もあります
ASDの治療は、なるべく早期に気づき、専門の医師や市区町村などの窓口に相談するなど、適切な対応を行っていくことが大切です。
幼児期に診断された場合では、「療育」によって、コミュニケーションの発達を促し、適応力を伸ばすことによって、対人関係などにおける不安が低減され、学校など集団活動への参加意欲が高めることができます。療育とは少人数のグループをつくり、遊んだり作業したりすることで、集団でのルールを学び、併せてコミュニケーション能力を養っていくものです。
またこだわりの強さなどを、保護者をはじめとした周囲が理解して接し、成長を見守っていく環境をつくることも大切です。こうしたことで、本人が感じる対人関係などの不安がやわらげられ、学校生活など集団活動への参加意欲を高めていくことが期待できます。
ASDの原因は、脳機能の問題で起きると考えられていますが、まだ正確にはわかっておらず、ASDそのものに対応する薬もありません。しかし二次障害として、パニックやうつ症状を起こしてしまう場合は薬物を処方するなどし、お子さんが生活しやすくなるよう改善し、療育にスムーズに取り組めるようにしていきます。
LD(学習障害)
LD(Learning Disability)は学習障害と訳され、「基本的には、全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなどの特定の能力の習得と使用に著しい困難を示す」様々な障害のことと定義されています。
学習障害は主に以下の3つに分類されます。
- 読字障害(ディスレクシア)
- 文字を読むことに困難を感じるもので、文字とその文字が表す音とを対応させることが難しく、勝手な読み方や読み飛ばしをすることが多い、音読と意味の理解が同時にできず、読み書きに時間がかかる、などの特性があります。
- 書字表出障害(ディスグラフィア)
- 文字が読めるが、文字を書くことが困難であるものです。左右が反対になる、誤字脱字が多い、文字の大きさに均一性がなくノートの罫線に沿って書けない、などの特徴がありますが、自分自身には間違っていという認識がありません。
- 算数障害(ディスカリキュリア)
- 数字・数式に関し、認識や単純計算などが困難であるものです。一般的な「算数が苦手」な状態ではなく、1・2・3といった基本的な数字や計算式の認識をすることも難しく、また数字を揃えて書くことも苦手な傾向にあるものです。
学習障害は通常、苦手分野以外の知的能力に問題はないため、小学校2年生以降(7~8歳)になって初めて気づかれる傾向があり、単なる苦手分野だと思われ、本人も気づかず、そのまま大人になることもあります。しかし、場合によっては学校生活などで過度な不安を感じ、抑うつ状態になったり、引きこもりになったりという可能性もありますので、早期に発見し、所有委が理解して対処していくことが重要になります。
学習障害では、視覚や聴覚の異常、脳腫瘍など脳の病気で引き起こされていないのであれば、「環境調整」や「療育」、「合理的配慮」を行っていきます。「合理的配慮」の例としては、センター試験の際、読字障害の方は文字さえ読まなくて良ければ問題を解ける可能性があるため、障害の申請によって、別室で問題を読み上げる特殊な試験を受けることができるなどのことがあります。